はじめに
東日本大震災の発生から4年が過ぎました。震災当時は、何が起きても不思議ではない「非日常」の世界で、今の落ち着いた毎日とは明らかに異質な日々でした。不適切な表現かも知れませんが、それはある意味で稀で貴重な経験でしたから、当時の記録を読み返し、投資家としての私がどのように行動したかを書き残しておきたいと思います。後日再び大災害が起きた場合、この文章が投資家の判断や行動の一助となれば幸いです。
Ⅰ.震災直前まで
平成23年2月25日時点での株式保有状況は以下の通り。前年終盤から買い始めた桧家HDの含み益が増大中だが沖縄セルラーの巨大な含み損を埋めるには至らず。しかし収支はもう少しでプラス転換というところまで到達。当時のブログ記事を見ると、証券口座には15万円しかなく、ほぼフルインベスト状態。
3月8日は予備資金100万を投入して桧家住宅を6株購入、資金が完全に枯渇。一方で、桧家住宅の株価上昇効果でトータルの収支はプラス圏に転じる。その時のブログがこちら。3月9日に東北地方で大き目の地震が発生するも被害は軽微。いよいよ震災当日を迎える。
Ⅱ.大地震発生 3月11日(金)~3月13日(日)
3月11日(金)
震災当日、当時会社員であった私は通常通り出勤し、午後からは渋谷にある某社で打ち合わせ。その日はやたら眠気が凄かった。午後2時46分に地震が発生。今まで生きてきた中で最大の揺れ(体感的に震度5くらい)に襲われ驚くが、いつまで経っても揺れが収まらないことにより不安を感じる。
打ち合わせ終了後、渋谷駅の銀座線改札に行ってみるが当然ながら不通。そこにあったモニターで仙台空港付近を襲う津波の中継を目撃して驚愕。これは両親が死ぬかも、と感じる(後程無事を確認)。携帯は規制が入ってほとんどつながらない。メールは遅れながらも送受信可能。
電車が動かないので、あきらめて早くも居酒屋で飲み始める人も多数。意外と飲食店は通常営業している店が多い。2時間ほどかけてオフィスまで徒歩で戻るが、他の社員は既に退社済みで誰もいない。。会社近くのコンビニには帰宅をあきらめた人が買い物をするために行列を作り、入店規制されている有様。古いビルなので至る所にクラックが走っている。インターネットは使えたので情報収集に精を出す。
午後10時くらいに銀座線が復旧するとの情報をインターネットで確認、さっそく帰宅。情報が伝わっていないのか、銀座線は意外と空いている。乗客は興奮気味に今日の地震の話をしている。マンションのエレベーターが止まっているので11階まで階段で上る。部屋に入ると家財が動いたり散乱しているが、幸い壊れたものはない。テレビをつけると悲惨な情報が次々と入る。仙台市の海岸付近に数百の遺体が打ち上げられているとのニュースを聞いて絶句。これは相場も荒れるだろうと覚悟する。余震が続くが、歩き疲れたこともあり熟睡。
■3/11 日経平均:終値 10,254円(前日比 -180円、-1.7%)
地震直後急落して安値引け。売り抜けれた人は意外と少なそう。地震で株取引どころではなかった。
3月12日(土)
未明に長野県でも大地震発生。東京電力の福島第一原発でトラブル発生というニュースが入る。会社の総務の人から大阪に避難するよう何度も電話連絡を受ける。最初は大げさだと思ったが、原発で水素爆発発生とのニュース、ヤバそうなので移動を決断。最低限の荷物を持って午後8時くらいの新幹線に乗る。乗車直前でも指定席が取れたので案外混んでいない。その日は会社の人が手配してくれた大阪のホテルに泊まる。
3月13日(日)
大阪にあるオフィスに顔を出した後、ブラブラして過ごす。デパートは普段通りの営業で人々も普通。大混乱の東京との温度差を実感。2日ぶりにまともな食事にありつく。原発事故は終息せず悪化傾向。非常時ではあるが、その状況を最大限に活かすべくリバウンドを取りに行くことを決意。
Ⅲ.原発事故と株式市場の大混乱 3月14日(月)~3月末
3月14日(月)
月曜午前に都内でアポがあり始発の新幹線で帰京。しかしあえなくアポはキャンセルされる。。福島第一原発3号機でも水素爆発発生。計画停電が始まる。
■3/14 日経平均:終値 9,620円(前日比 -634円、6.2%安)
予想に反して急速に円高が進む。FXしてたら助からなかった可能性大。株式市場は予想通り暴落。不測の事態に備えて当面の生活資金以外の資金約50万円を証券口座に入れる。が、誘惑に負けて早速桧家住宅の株を買ってしまう。
①現物買い 桧家住宅 4株 @115,000円
②信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
③信用買い JHR 2口 @211,950円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 4株 @115,000円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
信用買い JHR 2口 @211,950円
3月15日(火)
福島第一原発の2号機と4号機でもトラブルが発生。携帯の地震警報がひっきりなしに鳴って落ち着かない。静岡でも大地震発生。
■3/15 日経平均:終値 8,605円(前日比 -1,015円、10.6%安)
日経平均は一時1,400円近く暴落して8,227円まで行く場面も。ただ脱力感のみが残る。前日よりひどい暴落でビビッて買いを入れられない。というか資金がなかった。。前日の早まった買い付けを後悔。震災直前に20万円に迫っていた桧家住宅の株価はこの日ストップ安、90,100円まで下落して大いに動揺するがブン投げは我慢。
④現物買い 三菱UFJFG 200株 @387円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 4株 @115,000円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
信用買い JHR 2口 @211,950円
3月16日(水)
会社から自宅待機するように言われ、自宅で株式取引に励む。近所のコンビニから食べ物がなくなる。
■3/16 日経平均:終値 9,093円(前日比 +488円、5.7%高)
やっとリバウンド。いろんな銀行口座で寝ていた資金約90万円をかき集めて証券口座に送り、気力を振り絞って買い向かう。
⑤現物買い 桧家住宅 6株 @93,000円
⑥現物買い 伊藤園優先株 1株 @960円
⑦現物買い 東京センチュリーリース 100株 @1,021円
⑧現物買い 日経225ETF 10口 @9,130円
⑨信用買い 武田薬品 100株 @3,765円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 10株 @101,800円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
現物 東京センチュリーリース 100株 @1,021円
現物 日経225ETF 10口 @9,130円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
信用買い JHR 2口 @211,950円
信用買い 武田薬品 100株 @3,765円
3月17日(木)
原発事故対応で、自衛隊ヘリを使った放水が行われる。
■3/17 日経平均;終値 8,962円(前日比 -131円、1.4%安)
⑩現物売り ⑧の日経225ETF 10口 @9,160円 ⇒利益300円(単純化の為手数料は考慮せず、以下同じ)
⑪信用買い 三井住友FG 100株 @2,509円
⑫信用買い 伊藤園優先株 200株 @989円
⑬信用返済 ⑪の三井住友FGの日計り 100株 @2,518円 ⇒利益900円
⑭信用返済 ⑫の伊藤園優先株の日計り 200株 @997円 ⇒利益1,600円
⑮現物売り ⑦の東京センチュリーリースを売却 100株 @1,150円 ⇒利益12,900円
⑯現物買い 桧家住宅 3株 @107,333円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 13株 @103,077円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
信用買い JHR 2口 @211,950円
信用買い 武田薬品 100株 @3,765円
3月18日(金)
■3/18 日経平均:終値 9,206円(前日比 +244円、2.7%高)
⑰現物買い 桧家住宅 2株 @117,000円
⑱信用買い 伊藤園優先株 200株 @1,012円
⑲信用返済 ⑱の伊藤園優先株の日計り 200株 @1,016円 ⇒利益800円
⑳信用買い 三井住友FG 100株 @2,529円
㉑信用返済 ⑨の武田薬品の返済 @3,795円 ⇒利益3,000円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 15株 @104,933円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,529円
信用買い JHR 2口 @211,950円
3月22日(火)
■3/22 日経平均:終値 9,608円(前日比 +402円、4.4%高)
㉒現物売り 桧家住宅 4株 @160,500円 ⇒利益222,268円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 11株 @104,933円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,529円
信用買い JHR 2口 @211,950円
3月23日(水)
■3/23 日経平均:終値 9,449円(前日比 -159円、1.7%安)
㉓現物売り 桧家住宅 2株 @175,000円 ⇒利益140,134円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 9株 @104,933円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,700円
信用買い 三井住友FG 200株 @2,529円
信用買い JHR 2口 @211,950円
3月24日(木)
通常出勤体制に戻り、株取引を控える。
■3/24 日経平均:終値 9,435円(前日比 -14円、0.1%安)
取引なし
3月25日(金)
■3/25 日経平均:終値 9,536円(前日比 +101円、1.1%高)
取引なし
3月26日(土)~3月27日(日)
重苦しい雰囲気が漂う東京を離れて九州へ旅行、気分転換を図る。
3月28日(月)
■3/28 日経平均;終値 9,478円(前日比 -58円、0.6%安)
再び安くなった桧家住宅を購入、二匹目のどじょうを狙う。戻りの鈍い三井住友FGを売却。
㉔信用返済 ②の三井住友FGの返済 200株 @2,673円 ⇒損失5,400円
㉕信用返済 ⑳の三井住友FGの返済 100株 @2,673円 ⇒利益14,400円
㉖現物買い 桧家住宅 2株 @136,000円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 11株 @110,582円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
信用買い JHR 2口 @211,950円
3月29日(火)
■3/29 日経平均;終値 9,459円(前日比 -19円、0.2%安)
リバウンドしないJHRを損切して売却。
㉖信用返済 ③のJHRの返済 2口 @188,200円 ⇒損失47,500円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 11株 @110,582円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
3月30日(水)
■3/30 日経平均;終値 9,708円(前日比 +249円、2.6%高)
取引なし
3月31日(木)
■日経平均;終値 9,755円(前日比 +47円、0.5%高)
㉗現物売り 桧家住宅 2株 @153,000円 ⇒利益84,836円
※震災後の新規ポジション
現物 桧家住宅 9株 @110,582円
現物 三菱UFJFG 200株 @387円
現物 伊藤園優先株 100株 @960円
Ⅳ.終息に向かう混乱
3月末時点における保有株式の状況は次の通り。
一時大パニックとなった株式市場だが、3月末には落ち着きをとりもどす。震災当日から一時は2,000円下げた日経平均も月末までには1,500円戻す。私の震災以降での取引の利益合計額は 428,238円(手数料税金控除前)。世間の混乱に乗じた利益なので、利益を原資として日本赤十字に10万円寄付する。
Ⅴ.反省
結果論でしかないですが、震災の数日前に虎の子の100万を投入したのが痛かったです。この資金をもう少し温存していれば、もっとリバウンドをとれたと思います。余裕資金の薄さと余裕のなさが利益の拡大を妨げたように感じます。
あとは暴落初日から買いに入ってしまったことも失敗でした。恐怖を打ち消すために何かをしたい衝動に駆られ、まだ高いところで株を掴んでしまうという失態を演じました。初日買った株の勝率はイマイチで、損切した株はいずれも暴落初日で買ったものです。こういう時は「動かざること山の如し」という気持ちが大切なようです。
信用買いのポジションを過度に拡大しなかった部分ではリスク管理ができていたと思います。ちなみに5.23の時には信用のポジションを大きくしてしまい、一時ピンチとなりました。。
それと、暴落時にブン投げなかった(正確に言うと、できなかった)のが結果として良かったかと。金融危機は別かもしれませんが、災害系の暴落は割と戻りが早いので、動揺を抑えることが損を出さないコツではないでしょうか。
Ⅵ.最後に~東日本大震災から学んだ教訓
いざという時に読み返して動揺を抑えるために、忘れないうちに書き残します。
なお、ここでいう暴落は個別株ではなくて市場全体の暴落を念頭に置いています。
①暴落に関する一般論
・暴落は突然起きる
・暴落は不定期的に起きる
・経済的な要因をきっかけに、不安が増幅されパニックになる
・悲観論が蔓延し、心理的な要因が相場の下落を加速させる
・暴落前の価格水準がファンダメンタル価値で説明可能ならリバウンドが期待できる
・暴落前の価格水準がバブルの状態であればリバウンドは期待しにくい
②暴落対策で日常的にやっておくべきこと
・レバレッジをかけた投資を極力控え、余力のあるポートフォリオで運用する
・暴落は一面でチャンスであり、その時に使える資金を確保しておく
・暴落時に買いたい株を日常からモニタリングしておく
③暴落時の心構え
・暴落時はポートフォリオを見たくなくなるほどの大きなストレスを伴うことを覚悟する
・一方で、そんな時は買いのチャンスでもある
・暴落時は買いチャンスであるが、それは暴落ではなくて大暴落かもしれない
・価格が下がったからといって直ちに全力で買い向かうのは危険でリターンも少ない
・一日で終息する暴落はリターンが少ないので、暴落初日の買いは見送っても問題ない
・暴落の時には2日目午後~3日目で買い向かうべし、それ以降は投資家が冷静になってくる
・暴落の原因となった株(東日本大震災でいえば東電)や直接影響を受ける株には手を出さない
・つられて安くなった優良株、ファンダメンタルが維持される株を選択して買うこと
・優良ディフェンシブ株なら10%程度、小型株は20%以上安く買える可能性あり
・バブル崩壊後の暴落の時には買い向かわない
暴落に巻き込まれると、評価損を認識するのが怖くて証券会社のサイトにログインできません。みんなも同じだと思います。みんなが恐怖で思考停止になる。そんな時に恐怖心に打ち勝って行動する事、行動できるよう日ごろから準備しておく事、心とお金の余裕が大切ではないかと思います。
長文にお付き合い頂きましてありがとうございました!
(Ⅵ.は以前掲載した この記事 を再掲したものです。)